ファラデーの単極誘導 / 単極モーター の実験

2002.03.24, 2013.01.13更新:リニア単極モータの実験追加
本ページは、単極モータの面白さを皆さんに感じていただくため、 誤っていると思われる仮説と、メール等でご指摘いただいた新しくて妥当と思われる仮説の両方を あえてごちゃまぜで記述しています。
記事の追加された日時が新しいものほど仮説としては妥当です(多分)。
Setumei.jpg LinearUniMotor.jpg
単極モーターは回転子となる導体と磁界を発生する磁石が一緒になって回転/移動するという 不思議で極めて興味深いモーターである。
画面左側の回転型モーターでは,リング型ネオジウムマグネット2個の間に円盤状の銅板を挟んで吸着させたものを回転子として用いた。
画面右側のリニアモーターでは,角型ネオジウムマグネット2個の間に銅板を挟んで吸着させ,ステンレスベアリングをコロとした スライド機構の上に配置した。

これらのモーターを発電機として使用するとファラデーの単極誘導になる。

ファラデーの単極誘導(unipolar lead)とは?

UniMotorGraph.gif

上の図に示すように端面に磁極が配置された円柱状磁石に対し,同軸上に導体円盤を配置して軸回りに 回転させると,中心軸と円盤の辺縁部との間に誘導起電力(電圧)が発生する。そこでこの中心部と 辺縁部を電池と考えて回路を構成すると,誘導電流が流れる。 ここでは,

という現象が起きる。これはファラデーの単極誘導の実験として知られている。 特に3番目の項目が不思議な現象としていろいろな文献や教科書に紹介されている。
これは一種の直流発電機である。逆に電流を流してやれば,直流モーターになる。 それが単極モーターである。

単極モーターの不思議

普通の直流モータは永久磁石は固定子として台に固定され、 回転子は導体による電磁石で構成され,回転子が発生するトルクの反作用は 固定子として台に固定された永久磁石が受ける。 ところがこの単極モータには台に固定される永久磁石の固定子が無い。 磁界を発生する磁石が回転子と一緒になって回転するのである。
回転子の回転を加速する際に発生する反作用のトルクはどこに行ってしまうか? というところが非常に不思議な現象である。
つまり,運動力学的な視点だけで見ると,孤立系の角運動量が保存していないのである。

この不思議な現象は電磁気学の教科書などによく紹介されているので知識として知ってはいたが, 私は機械系出身なので,台に固定される永久磁石の固定子が無く, 磁界を発生する磁石が回転子と一緒になって回転するという現象が 直感的にどうしても納得できなかった。 たまたま超強力な円柱状磁石が手に入ったので, 自宅のガラクタ箱にあった材料を探し,画像にあるような装置を約30分で組み立てて回してみた。 教科書にあるように,ちゃんと回った。感想:うーん,奇妙だ。
技術データの記述で示すように,大電流を流さなければ動かないので,本機は 物理実験の教材としての用途以外には実用性は低い。
産業応用上は,単極誘導発電機については低電圧で大電流が必要な金属精錬などで用いられるが, 単極モーターについては?である(そこがまた楽しいのだが)。 追記: 後に調べたところによると,永久磁石にトルクの反作用などによる応力が無い特徴に着目して, 単極モーターの永久磁石に超伝導磁石を用いて船舶用のモーターを小型化する研究がされているそうである。 永久磁石に応力がかからないので,超伝導磁石の機械的支持が不要で冷却装置が簡素化できるとか。(2002.04.08)
今までロボットや実験装置をいろいろ作ってきたが, よく考えてみるとモーターを自作したのはこれが初めてだ。

この不思議な現象については,いくつかの仮説が考えられるが,筆者の願望を込めた勝手な仮説では, 単極誘導は力学的な角運動量と空間の電磁場の持つ物理量が相互に変換される現象ではないだろうか?
読者は,光や電磁波が光子として運動量を持つことをご存知だろう。質量が無くても運動量は存在できる。 面白いのは静電磁界の存在する空間は角運動量を持つということである。 そして角運動量を持つ主体が電極や磁石といった電磁界を発生させている物体ではなく,空間そのものであり, 「角運動量」という力学的な物理量が,人間の感覚では知覚不能だが物理的には全く同じ物理量である 「静電磁界」に変換されるため,非常に奇妙な現象に見えるということである。
よって運動力学的な視点だけでなく,電磁気学的な視点も含めれば, 孤立系の角運動量は保存している(…はずであるが,何かどこかおかしいような気がする)。
(2003.06.17) 上記の仮説を検証すべく、実験装置の静電磁場の持つであろう運動量を試算してみたところ、 絶望的に小さい値だった。光など電磁波の運動量とちがって、磁界は磁石で作れるし電界も高い電圧が かけられるから、かなり大きな値にできるのではないかと考えていたのだが、 数十グラムの移動子が運動するほど大きな運動量にはとてもなりそうにない。
仮説に大きな間違いがあるかもしれない

【参考文献1】青野 修 著,小出 昭一郎・大槻 義彦 編:物理学One Point-2 電場・磁場,共立出版
       p.62やp.81において電磁界の持つ角運動量についての説明がある。
【参考文献2】パリティ編集委員会 編(大槻義彦責任編集):続 間違いだらけの物理概念,丸善
       p.123より磁力線の運動の概念や単極誘導についての説明がある。

電源からのループ電流による磁界の影響

回転子の加速に伴う反力は,電源側の回路における電流ループにかかるのではないかという仮説がある。 回転子に取り付けた磁石からの磁界の影響で反力を受けるとすると, この磁界はフェライトや鉄心などを使って回路を交差しないように磁気回路を構成可能であり, 反力を受けないように設計可能である。 (もっとも、本当にそのような構成でモータが回転するかどうかは実験の必要がある2013.1.22追記) よってこの仮説は理論的に無理がある。
また,電源からのループ電流が反力を受けると仮定すると、 ブラシが固定されている場合は力のつりあいを説明できるが、 ブラシが回転子とともに移動してしまう場合はたちまち説明がつかなくなる。 写真に示した回転型のモータでは,ブラシは台に固定されていたが, ブラシを回転子側に取り付け、電流を流してみた。 すると、台に固定された銅板上をぐるぐる擦りながらちゃんと回転した(2003.07.03)。 これは、リニア単極モータにより近い構造である。
UniRotB1.jpgブラシを回転子側に取り付けた回転型単極モータ
写真のように回転軸を電源の+極,銅板を−極へ接続。磁石は写真手前側がS極,裏側(銅板側)がN極で, 電流を流すと写真の反時計方向へ回転した。

(2007.07.17) 以前にもメール等でご指摘いただいておりますが、 磁気回路を構成しても、電源側の回路における電流が磁気回路の磁性体に力を及ぼすため、 上記の考察は誤りのようです。
北海道教育大学 教育学部の中川雅仁准教授より、 日本物理教育学会誌「物理教育」Vol.55, No.2, pp.141--144 に 「単極モーターの動作原理」と題した論説を執筆されたとのご連絡をいただきました(下記文献参照)。 それによると、磁石には金属板や銅線に流れる電流からの力のモーメントは働かず、 銅線部分には、金属板部分に働くモーメントと大きさは同じで向きが反対のモーメントが働くとのことで、 理論解析により示しています。
中川先生、上記論説の別刷りをお送りいただきましてありがとうございました。

【文献】中川雅仁:単極モーターの動作原理,日本物理教育学会誌「物理教育」Vol.55, No.2, pp.141--144 (2007).

(静)電磁場の持つ運動量

参考文献1の式(3.21)によると,電磁場の持つ運動量は,電束密度Dと磁束密度Bとすると,単位体積あたり
D×B で表されるとある。(電束密度も磁束密度もベクトル量で,×は外積を表す)
この物理量が本当に運動量になるのかどうかを次元解析してみる。

ここで,電束密度 D=εE ただしεは誘電率(F/m),Eは電界(V/m)である。 また,静電容量ファラドF = C / Vで,磁束密度テスラ T = kg s-2 A -1,電荷クーロンC=A s である。
よって,電束密度×磁束密度= (C V -1 m -1 ) (V m-1)( kg s-2 A -1)
= kg m -2 s -1 となる。ここで,これは単位体積あたりの運動量だとなっていたから,体積の次元 m 3 を掛けると kg m s -1 となり,これは(質量×速度)を表す運動量に他ならない。
これのモーメントが角運動量である。
参考文献1のp.62に説明されている電磁場の角運動量の計算例 (2003.04.13)
上記の別ページの例をみると、静電磁界の運動量が力学的運動量に変換されることは分かる。
しかし、モーターが摩擦力に打ち勝って回り続けるためには、力学的運動量に変換したことにより失われた電界を再び もとに戻し続けることが必要である。この静電磁界の運動量はどこから沸いて出てくるのだろうか?
電気回路部分を含めた系全体の運動量は保存しているはずだとは思うが、電池の中に運動量が大量にあるのだろうか?

電磁場の持つ運動量について、マクスウエル方程式から説明しているページを見つけました:
マクスウエル方程式の説明ページへ無断リンク
上記ページ中の電磁場の運動量についての記述のページへ無断リンク
ちょっと見てみましたが、難解です!理解するためには相当な気合がいります

回転型 単極モーター の起動・停止の様子を記録したmpegムービー

直接クリックしても見れない場合は,
右クリック等で「対象をファイルに保存」でmpgファイルを保存してからメディアプレイヤー等で見てください:
UniMotor1_.mpg (約9秒,657KB) UniMotor2_.mpg (約12秒,835KB) UniMotor3_.mpg (約7秒,501KB) クリックすると縮小版ムービーへ

UniMotor1.mpg (約10秒,2.29MB) クリックすると大きなムービーへ
UniMotor2.mpg (約7秒,1.67MB) クリックすると大きなムービーへ
UniMotor3.mpg (約8秒,1.73MB) クリックすると大きなムービーへ

技術データのメモ書き


つれづれなるままに感想など

この角運動量が保存しないように見える単極誘導や単極モータは,私個人としては非常〜に興味深い。 今までもこれらはNマシンなどとも呼ばれ,永久機関やフリーエネルギー発生装置といった怪しげな トピックスにおいてしばしば登場する。私が単極誘導について興味を持った最初のきっかけは, エレクトロニクスライフというまじめな技術雑誌において,上記の怪しげなトピックスで記事が掲載 されていたことによるものだった。 (後にweb検索で調べたところによると,エレクトロニクスライフ1994年10月号pp.65--74, 寄稿者は逆瀬川皓一朗氏だとのこと。けっこう有名な記事らしい。 情報源となった関連ページへ

永久機関うんぬんという話は,運動力学的に角運動量が保存しないことを見落としたために生じた計測方法のミス だろうと予想できたが,では角運動量はどこへ消えるのか?という疑問には長いこと悩まされ続け, いろいろな電磁気の教科書を探し続けた。電磁界の持つ角運動量について説明した教科書は意外と少ない。
【参考文献1】に挙げた本は,この疑問にかなりの直球で答えてくれる数少ない名著だと思う。 このシリーズの本はこの他に「角運動量保存則」とか「質量」「エントロピー」といったタイトル で面白い内容の物が多数ある。

この単極モータは,磁界や電界といった概念が,2体間の相互作用を説明するために便宜的に 導入されたものではなく,何もないように見える空間に確かに存在する物理量であることを 強烈なインパクトを伴って実証する優れた教材だと思う。 電磁気学を勉強する高校生や大学生にはとても有益だろう。
しかし,その前に「作用・反作用の法則」や「(角)運動量保存則」といったニュートン力学の 基礎を理解していないと,何がおもしろいのか,どこが不思議なのか理解してもらえないかもしれない。
「(角)運動量保存則」は,「エネルギー保存則」と並んで普遍的に成り立つ重要な物理法則である。 ニュートン力学の基礎を勉強する前に単極モーターなど見せられたら,さぞ混乱することだろう。

自画自賛だが,ここで自作したモーターは, ありあわせの材料で適当に組み立てた割にはきれいでバランスも良くできた。 こんなことは珍しい。 もっとも,ネジの一部は,実験用に組み立てたロボットから外して借りてきたりもしている。
次は直線運動をする単極モーターの実験に挑戦する。


単極リニアモーター

2002.04.01
LinearUniMotor.jpg

物理の教科書において,磁界中を運動する導体に電流を流すとローレンツ力が働くという例題 として,上下に磁石を配置したレールに導体棒を渡して電流を流し運動させるというというのが よくある。しかし,この磁石には反作用が働かないので,導体に磁石を乗せても動くというのである。
これも実験によっていろいろ確認してみた。

通常のリニアモーターは,固定子に磁石や磁性体を配置するため,全体が非常に 重くなる。しかし,この単極モーターは磁石は移動子にのみ配置され, また固定子は磁性体もコイルも不要なので,システム全体は極めて軽く, 工学的に有用性がありそうである。

リニア単極モーター の起動・停止の様子を記録したmpegムービー

直接クリックしても見れない場合は,
右クリック等で「対象をファイルに保存」でmpgファイルを保存してからメディアプレイヤー等で見てください:
LinearUniMotor0.mpg (約4秒,871KB) 単極リニアモーター全景の動作ムービー
LinearUniMotorUp0.mpg (約3秒,743KB) 単極リニアモーターアップの動作ムービー
LinearUniMotorF1.mpg (約4秒,1MB) 磁石を導体の上に乗せただけの場合の動作1
LinearUniMotorF2.mpg (約2秒,559KB) 磁石を導体の上に乗せただけの場合の動作2

技術データのメモ書き


移動子をブランコ型の機構にした場合

スライド機構を使ったら上のムービーに示すように、ちゃんと動いた。
次に下の写真に示すようなブランコの構造にして電流を流してみたが、全く動かなかった(当然だが)。 回路中に相対的に速度差が生じるような構造を持たせないとだめらしい:
LinearUniMotorNotWork.jpg

スライドする銅板をコイルに置き換えた場合

(2002.04.02) 銅線をコイル状に束ねて,流れる電流の大きさを大きくして大きなパワーを得るのは, この種の装置ではよく見られる工学的工夫である。
そこで,このリニア単極モーターでも,移動子の銅版を下の画像のようにコイルの片側部分 に置き換え,導体中を通る電流を見かけ上数十倍となるよう工夫した。 普通に考えれば導体に働くローレンツ力の合計は数十倍となるはずなので, 加速性能も数十倍となるはずである。

しかし,ほぼ同じ電流を供給しているにもかかわらず,加速はほとんど変わらなかった。 よって,導体が受けるローレンツ力の合計が推力となるわけではないらしい。 系全体の電磁界が持つ運動量を考えないと説明がつかない。 単極誘導とは奥が深い。

上の画像では,磁石の上側がN極になっていて,画像手前のレールが電源の+電極へ,奥のレールが −電極へ接続されており,スライダは画面右側へ移動する。
磁石や電源の極性をそのままにして,画像に示したコイルの左側の位置に磁石を配置して電流を流すと, 驚いたことに同じ方向(右側)へ移動した。コイルの右側と左側では電流の流れる方向が逆のはずなのに, 同じ方向へ進むということは,やはり左右レール間の電界と磁石による磁界が移動子の運動量に本質的に かかわっていることを示しているのではないだろうか。
(もう一つの可能性としてコイルの絶縁体が熱によって溶けてショートしているというのも考えられる。 念のため追試してみよう)

電源からのループ電流による磁界の影響

上記の回転型あるいはリニア単極モータが動いたのは,電源からモータへ供給されている電線で構成された ループ電流が磁界を発生し、
移動子の磁石がこれに反応したからではないかというご指摘をいただいた。(2003.06.07)

単極誘導や単極モータに興味を持ち始めた当初は、私もまずこの仮説を立てて考えたのだが、
これだけではどうしても理論的に説明できない現象がたくさんあったために何年も悩んだ。
例えば、回転型の単極モータの反力を受けるのが電源からのループ電流による磁界だと仮定すると、 磁性体による磁気回路によって、この電源からのループ電流による磁界が移動体を横切らないように デザインすれば、単極モータは回転しないことになってしまうし、発生するトルクも教科書等で 計算される値とは全然異なるはずである。
つまり、上記のような仮説によって力学的に運動量保存則が成り立つように方程式を立てようとすると、 電磁気学的に計算される値が説明できなくなってしまう。 移動子が受ける力に等しい反作用の力が、どう計算しても出てこないのである。
今のところ、電磁界の持つ運動量が力学的な運動量に変換されたと考えるほうが、 「電源ループ電流により生じる磁界の影響説」よりも理論的に妥当である。

上記の実験中には記述していなかったが、この電源からのループ電流による磁界の影響についても いろいろ調べている。例えば、電源装置からリニアモータへ接続する電線の配置を変え、 移動子の真下のレールにコードをつないだ上で、 電源からのループ電流による磁界移動子を横切る磁界が反対になったり、 キャンセルするようにしても、移動子の加速には全く影響が無かった。 これは「電源からのループ電流による磁界の影響」を否定する実験事実である。
また、「移動子の磁石が力を受けている」という仮説については、上記の実験ムービーの中で、 LinearUniMotorF2.mpg (約2秒,559KB) 磁石を導体の上に乗せただけの場合の動作2 をみれば、磁石を置き去りにして導体だけが飛び出している現象が観測される。 これは「移動子の磁石が力を受けている」という仮説を否定する実験事実である。

リニア単極モータと非常に類似した機械として、「レールガン」あるいは「電磁ガン」などと呼ばれる導体の加速装置がある。 これは、電源からのループ電流による磁界(厳密にはレール上を流れる電流による磁界)を 導体の加速に積極的に利用するもので、本ページの単極モータのように移動子に磁石を積んでいるわけではないのだが、 弾丸を発射する際に反動がない、すなわち移動子加速の際に反力がないことが知られている。 これは、移動子を加速するための磁界を発生させる主体に反力が働かず、 力学的に運動量保存則が破られているように見える点で本ページのリニア単極モータと共通している。
レールガンやこれと同等のフレミングの法則によって移動子を加速する装置に 反作用が働かないことを詳しく説明した文献を探しています。 お心当たりのある方はぜひ情報をお寄せください。

(2007.07.17) 記述が重複いたしますが、 磁気回路を構成しても、電源側の回路における電流が磁気回路の磁性体に力を及ぼすため、 上記の考察は誤りのようです。
北海道教育大学 教育学部の中川雅仁准教授より、 日本物理教育学会誌「物理教育」Vol.55, No.2, pp.141--144 に 「単極モーターの動作原理」と題した論説を執筆されたとのご連絡をいただきました(下記文献参照)。 それによると、磁石には金属板や銅線に流れる電流からの力のモーメントは働かず、 銅線部分には、金属板部分に働くモーメントと大きさは同じで向きが反対のモーメントが働くとのことで、 理論解析により示しています。
中川先生、上記論説の別刷りをお送りいただきましてありがとうございました。

【文献】中川雅仁:単極モーターの動作原理,日本物理教育学会誌「物理教育」Vol.55, No.2, pp.141--144 (2007).

電流によってボールベアリングに生じるトルクの影響

上記のリニア単極モータの構造が、「ボールベアリングモータ」と呼ばれるものに非常に近いので、 大電流によりベアリングにトルクが発生して動くのではないかというご指摘をいただいた(2003.06.11)。 ボールベアリングモータとは、大電流によってベアリングにトルクが発生する現象で、 そのメカニズムの説明にはいくつかの仮説がある。 掲示板等で教えていただいた文献としては以下のものがあるらしい(まだ読んだことはないのだが):

P Hatzikonstantionou and P G Moyssides:
"Explanation of ball bearing motor and exact solutions of the related Maxwell equations",
J Phys. A: Math. Gen. 23, pp.3183--3197 (1990).

P G Moyssides and P Hatzikonstantinou:
"Study of electrical characteristics of the all bearing motor",
IEEE: Trans. Magnetics M-26, pp.1274--81 (1990).

早速確認のための実験をやってみた。
結論から言うと、確かにベアリングに何らかのトルクが発生しているらしく、 移動子の移動現象に関与している可能性があるかもしれない ということが分かった。ただ、発生する推力を全てベアリングのトルクで説明できるかどうかに ついては、まだなんともいえない。
以下、実験により観察できた現象を紹介する:

導体でできた移動子(0.2mm厚の銅板)を直径6mmのステンレスボールが 並んだ銅のレールの上に置き、レールに電流(約10A)を流す。
(上記リニア単極モータから磁石を取り去っただけだが)
上からみてレールに対して以下のように電流を流すと、移動子は 左方向にわずかながら移動する様子が観測された:

---------------------------------レール右端 電源−極へ
  ←[移動子]
---------------------------------レール右端 電源+極へ

また、電源の接続を逆にすると、以下のように移動子は右方向へ移動する現象が 観測された:

---------------------------------レール右端 電源+極へ
   [移動子]→
---------------------------------レール右端 電源−極へ

「動く」といってもごく微弱な力しか働いていないらしく、すぐ銅が溶着して 止まってしまう。
しかし、動く場合には必ず上記のような方向のみで、 同じ実験設定で逆向きへ動く事例は全く観測されなかった。
磁石と同程度のオモリをのせると、重すぎて力が足りず、動かなかった。

移動子に流れる電流がレールに流れる電流による磁界から力を受けて動くなら、 上記2つの実験とも同じ方向へ移動するはずだが、逆方向へ動いた。
ベアリングを無視するなら、上記2つの設定は、装置を裏返してみただけで同じ もののはずである。ということは、ベアリングが何らかの作用をしているとの 結論が帰結される。
磁石を載せると、ベアリングの並んでいる場所にも磁束が漏れてくるので、 これらがベアリングに発生するトルクを増大させるなど影響を及ぼしている 可能性は十分考えられる。
上記リニアモータの実験結果を説明するとしたら、この仮説が一番もっともらしい気がする。

ただ、非常に力が弱いので、いろいろ装置を工夫して再確認する予定である。

ボールベアリングの代わりに水銀を用いたリニア単極モータ(2006.7.11更新)

ボールベアリングの代わりに、細長いくぼみ状の2つの容器を平行に配置して水銀を満たし、 それら2つの容器をまたぐようにした移動子を水銀に浮かべて電流を流して実験をされた とのメールをいただき、実験の様子を撮影したムービーを拝見させていただいた(2006.07.02)。

上の写真で示すように、回路を構成する導体のスライド部分にベアリングを使用せずにブラシを使用し、 接触部分の摩擦を低減するため移動子の磁石や導体の重さを別の機構で支持して実験を行なった。 移動子を支える部分は軸を中心に回転運動するので、正確には「リニア」ではないが、 本質的にはリニア単極モータと同じはずである。
これに10A程度の電流を流したところ、,移動子は全く動かなかった。
磁石を増減させたり電流を増減させたりしたが、移動子が動く気配は全く無かった。
よって、今までリニア単極モータが動いた原因は、ベアリング部分に流れる電流と移動子の磁石による磁束 の作用によってベアリングがローレンツ力を受けて運動したためであると考えられる。 ボールベアリングの代わりに水銀を使用したケースでも、水銀部分に磁束があれば同様の原因で動くことが予想される。
すると今度は逆に、円盤状の単極モータが動く理由が分からなくなってきた。

回転式モータの実験において、回転子と一緒にブラシも回転するものを示したが、 上記の実験結果より、磁石と導体が円盤状だと回転して、それ以外の形状だと回転しないということになる。
回転する場合としない場合を分ける要因は何なのか??今のところ筆者にはよく分からない。
今度は磁石は円盤状だが導体だけ円盤状ではない場合や、回転子と一緒にブラシが回転するモータにおいて 回転子に磁気シールドを施して一緒に回転するよう構成した場合についての挙動を実験してみるつもりである。

筆者のボヤキ:この実験装置の組立には数万円の費用と4時間以上の加工・組立という莫大な投資を行ったにもかかわらず、 全く動かないというorzな結果に終わり、筆者は大変凹んでしばらく立ち直れなかった。 このような情報は、事前にインターネットで情報を集めても全く入手できなかったため、 費用と手間ををかけて工学的に無意味な装置を作ってしまった。
この結果をインターネットで公開することにより、 せめて少しでも学術的な貢献となることを期待したい。
このページをご覧の皆様、何かしら実験を行いましたら、ぜひその貴重な情報をお寄せくださいますよう、 よろしくお願い申し上げます。

回転型リニア単極モーター? ブラシの無い回転型単極モーター

ベアリングモータと同一原理かどうか分からないが、 銅でできた円盤状の車輪2コを銅の車軸でつなぎ、円盤に磁石を貼り付け、 ちょうど回転型単極モータを互いに反対向きに2コつなげて転がるようにした。 この状態でレールに電流を流したら、磁石と一体となって転がり出した。
UniLinearRot1.jpg側面に円柱状磁石を取り付けた回転型リニア?単極モータ
写真のように車輪外側に磁石のN極,車輪内側に磁石のS極がくるよう円柱形磁石を配置してレール左側を電源−,右側を+につないだら車輪は手前へ 転がってきた。電源を逆につなぐと奥の方向へ転がる。これならブラシも不要で便利。(2003.07.07)

しかし、この実験結果は回転型単極モータと対比すると少々奇妙である。 回転方向だけみると一致しているようだが,この車輪型モータの場合は支点に相当する部分は 車輪がレールに接している場所なので、車軸→レールへ電流が流れることで力を受けるとするなら 回転型単極モータと対比したら、レール左側−,右側+の場合、車輪の車軸下部に奥の方向への力が働いているはずであり、 この場合車輪が奥へ転がらなければならない。しかし実際には逆方向(手前)に転がる。
この現象の仮説としては,磁石がない車輪の辺縁部を電流が迂回し、特に車輪上方向から車軸へ流れる電流 が下部から流れる電流とは逆方向に力を受け、支点との距離が離れている分だけモーメントが大きい(2〜3倍)ため、 こちらの力によって動いてしまっているのではないかと考えられる。
この仮説を検証するには、車輪の円周方向には電流が流れないようにスリットを入れて絶縁するなどの 工夫を行えば良いだろう。
動作ムービーを追加(2006.08.25)
QuickTimeムービー1.23MB QuickTimeムービー1.72MB
手前側のレールが電源の+へ、奥に見えるレールが電源の−へ接続されている。
車輪内側に両側の磁石のS極がくるよう円柱形磁石を配置。
残念ながら途中で車輪が白いプラスチックのガイドレールに接触して止まってしまう。
QuickTimeムービー1.06MB QuickTimeムービー1.15MB
手前側のレールが電源の−へ、奥に見えるレールが電源の+へ接続されている。
車輪内側に両側の磁石のS極がくるよう円柱形磁石を配置。
途中で車輪が白いプラスチックのガイドレールに接触して止まってしまう。
レールが坂になっているためか電源を切ると戻ってきてしまう

しかし、私費を投入して1コ2800円もする磁石4コも使って、真夜中にこんな実験やってる自分ていったい?と 人生に疑問を感じてしまったことよ。

リニア単極モータと上記のものと類似する形状のブラシを使わない単極モータについて, 京都大学の北野教授から おもしろい文献があるとの連絡をいただいた。

【参考文献3】霜田光一:やさしくて難しい電磁気の実験,
      パリティ Vol.04, No.12, 1989-12, pp.80--83.

上記の文献によると、レール部分を棒状ではなく大きな板状にして、 左右の無限遠方向から電流を流すと転がらないことが紹介されており、 反力はレールにかかっていると説明されている。 大きな銅版を入手したら実験してみよう。

空だって飛んじゃうぞ! リニア単極誘導推進エンジン?

単極リニアモータの実験結果を踏まえ、ジェットやロケットエンジンのように後方へ物体を噴出することなく、 無重力下の真空中でも機体を加速することが可能な推進法を考案した。
名づけて「きむら式リニア単極誘導推進システム」 だ!

しかし、こんなことが本当に可能だとすると、推進器で機体を上向きに加速して 重力加速度に打ち勝つことができるくらい十分な電力さえあれば、UFOが作れてしまう。
論理にどこか間違いがあるのだろうが、どこが間違っているのか分からない。 エネルギー保存則は成り立っているし、
電磁気学的な視点も含めれば(つまり静電磁界が運動量を持つ点を考慮に入れれば)運動量保存則も成り立っている。
超常現象マニアが喜びそうなトピックになってしまったが、ここはそういうトンデモなページでも擬似科学のページでもないつもりです。
理論的な誤りに気が付いた方いらっしゃいましたら、すみやかにご指摘願います。
あるいは、同じようなシステムを考案した・失敗したなどの情報ございましたら お知らせ願います。

【参考】掲示板で教えていただいたレールガンの反動に関する記述のある文献:
Author: Peter Graneau and Neal Graneau:
Book Title: Newtonian Electrodynamics,
Publisher: World Scientific Publishing Company, Inc. (1996).
ISBN: 9810226810
この本は既に絶版になっていたので、だめもとで書店に発注かけたらすぐ入手できた。
まだちゃんと読んでいないので、反動があるのかないのか良くわからない。

反動を説明することが困難な空芯電磁レールガンの原理(2003.06.13)

どうもレールガンやリニア単極モータが無反動だという仮説?に対して否定的なご意見が多いようなので、
反動や反作用の発生を説明することが困難なレールガンの原理を考案した。

実際に物体の加速などに使用されるレールガンは、レールや移動子に流す電流を 磁界の発生にも用いている。 「レールガンに反動がある」と主張される方々の論拠は、移動子を加速する際にかかる力と 同じ大きさで反対方向の力が、電流を流す際に回路を構成している電源側、 すなわちレールに対して移動子が飛び出すのと反対側の閉じた導線部分にかかるから、 これが反動になるというものである。なるほどこれは説得力がある。

ではこの閉じた回路部分が、レール幅と同じ幅の真空ギャップを持つコンデンサだったら どうだろうか?(下図参照)

電荷+Q
==============------------------------------レール
            [移動子]
==============------------------------------レール
電荷−Q

移動子を発射する前は、コンデンサの極には+Qと−Qの電荷が蓄えられている。 移動子に電流が流れると、コンデンサとレール、移動子の間をループ状に電流が流れる。 このループ電流による磁界と移動子に流れる電流によってフレミングの法則に従って移動子が 力を受けて運動する。
このとき、コンデンサの極板間には、変移電流(字は正しいのかな)は流れ、磁界発生に貢献するが、 力を受ける実体がないので、フレミングの法則による力を受けようがない。
また、側面のレールについては、移動子と同様なので磁界から力を受けるが、 磁界から受ける力は(電流の流れる方向)ベクトルと(磁界)ベクトルの外積、つまり外側方向だけであり、 移動子の移動方向の成分を持つような力は受けない。
かくして、装置には何の反動も与えることなく、移動子が加速される。

【運動量保存則は?】
移動子が動き出す前には電界が存在し、移動子の移動に伴って一時的に磁界が発生して、 やがて電界も磁界も消える。よって、電磁界の持っていた運動量と等価な物理量が、 移動子の運動量に変換されたと考えれば、系全体の運動量は保存していると考えられる。
これでどうだー!

しかし、これは少し都合の悪いことにコンデンサを放電するときに、 電源回路側に移動子が移動するのと反対方向への力がかかることになる。
(非定常電流によって生じた電界(誘導電界)からコンデンサの電荷が左向きに力を受ける)
運動量を計算すると、おそらく大きさは移動子の運動量に一致し、符号が逆になるだろう。
するとこのレールガンで「リニア単極誘導推進エンジン」を作っても、時間平均すると推進力は得られない ことになる。このままでは私の野望が砕かれてしまう。やっぱり無理かな?残念!

無反動のレールガンの原理(2009.05.07)

参考文献1のp.62に説明されている電磁場の持つ角運動量の例 の原理をレールガンへ応用すると、 下図のような原理にすれば、運動量保存則を満たしつつ完全に無反動のレールガンが実現できる。
railgun01.gif
railgun02.gif
ただし、このレールガンを「リニア単極誘導推進エンジン」へ適用しようとしてもダメ。
なぜなら、確かにこれ単独の孤立系では無反動だが、再度移動子を発射するために コンデンサを充電する際に、外部から等価な運動量を系へ与えてやらなければならないから。


余談だが、ジェットやロケットエンジンのように後方へ物体を噴出することなく、 無重力下の真空中でも機体を加速することが可能な推進法として、後方に光子(光や電磁波)を 放射する方法がある。光子は質量ゼロなので物体ではないが、運動量を持っているので、これを後方へ放射することで 反作用で推進するものである。しかしこの方法は、機体を加速するエネルギーよりも光子を放射して空間を伝播させる エネルギーのほうがはるかに大きく、推進法としては非効率だ。
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レールガンやこれと同等のフレミングの法則によって移動子を加速する装置に 反作用が働かないことを詳しく説明した文献を探しています。 お心当たりのある方はぜひ情報をお寄せください。
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