電気2重層コンデンサを利用した走行玩具 (2002.01.30 〜)
走行玩具用充電兼発進・停止制御装置の概要
蓄電装置および充電用電極を搭載した走行体が
走行路上の通電中の電極にさしかかると自動的に
停止して充電し、電極の電気が切れると自動的に
走行することを特徴とする充電式走行玩具である。以下に動作例を示す。
下の写真は給電レール上で充電中のおもちゃの電気機関車。給電中は自動的にモータがOFFになる。
クリックすると 拡大画面へ
充電は3〜4秒で良い。充電中は赤ランプが点灯する
給電レールの電気を切ると、自動的に発車
クリックすると 拡大画面へ
再び電気のきている給電レール上に来ると、自動的に停止して充電を再開
クリックすると 拡大画面へ
また給電レールの電気を切ると、自動的に発車。 これを繰り返せばいつまでも遊べる。
クリックすると 拡大画面へ
むき出し状態の電動台車。
単に前後に走って止まるだけだが、けっこう複雑な仕掛けがいる。
これは蓄電装置として電池ではなく電圧の変動が大きいコンデンサを用いていることと,
走行方向の切り替えやモータ駆動の電流増幅を半導体による回路で制御していることによる。
全てをこのサイズに詰め込むのはかなり大変である。ちなみに改造に用いたおもちゃはカプセルプラレールという
ぜんまい動力の鉄道おもちゃで,幅2cm高さ2cm長さ4cm程度の大きさである。
この回路を使った電動台車は、
3〜4秒の充電で写真の貨車2両牽引して約1分〜2分間走り,曲線線路12本+直線線路4本の環状レイアウトなら
20周以上走る。
一般的な充電式電池が 10分充電して 15分動くといった具合なのに対し、3〜4秒の充電で1分〜2分動くというのは、
かなり画期的ではないだろうか。また充電式電池は充放電を繰り返すと劣化するため 100〜200回くらいの充放電で寿命がくる
と言われているが、コンデンサは充放電の回数はほぼ無制限であり、(電解物質の経年変化を除けば)寿命は考える必要はない。
参考:タカラのデジQは,チョロQサイズの赤外線リモコンカーで、追充電可能なニッケル水素電池で充電10分/走行15分,
約200回までの充放電可能。よって15×200=3000分=約50時間走行させると寿命がくる。
トミーのビットチャーGは同様サイズのラジオコントロールカーで、ニッカド電池を用いて充電45秒/走行3分,
約300回までの充放電可能。よって3×300=900分=約15時間走行させると寿命がくる。
電気2重層コンデンサの寿命は, 充放電の回数に依存しない。常温下で使用する限りは 3〜10年は劣化しない。
コンデンサの寿命より先にDCモータの寿命がくる。
使用しているモータは携帯電話などの振動用に使用されているもので、標準寿命は1000〜2000時間以上である。
電動台車の底部のようす。
ソリ状の2枚の電極がレールに設置された電極に接触する。
以下の写真は充電用電極付の給電レールである。
列車が走り出す方向は,電極に流す電流の向きを変えることで前後自由に指示できる。
給電レール上の電極を押すとバネで簡単に引っ込む。離すともとにもどる
充電用給電レールの裏側。薄い銅版がバネになっている
コンデンサの電圧が変化しても車両の速度を一定に保つ工夫
一般に直流モーターの回転速度を調節するには、モータに流れる電流を調節する。
単純で効率良く行う方法として、PWM(pulse width modulation: パルス幅変調)と
呼ばれる方法がある。これは一定間隔でスイッチをON/OFFし、そのON/OFFの時間幅の比率をいろいろ変えるものである。
以下にPWMによってモータ速度を一定に保つ例を示す:
グラフ縦軸はモータ端子間にかかる電圧,横軸は時間を表す。
「キャパシタ電圧」とはコンデンサの電圧であり、モータの電源はこのコンデンサから供給される。
このON/OFFを繰り返す間隔は1秒間に100回以上なので、モータは慣性(勢い)によってなめらかに回る。
コンデンサ電動車の場合は、モータを駆動する電圧が変化しても車両の速度を一定に保つ
ので、充電したばかりでコンデンサの電圧が高い場合はグラフの一番上のように
モータをOFFにする時間を長くとり、コンデンサの電圧が低くなってきたら、モータをONにする時間を
長くしていくことにより、平均するとほぼ一定の電流になるよう調節している。
しかし、本システムの場合、コントローラはコンデンサの電圧を直接計測することができないので、
走った時間と充電した時間からだいたいの電圧を推定して制御している。
走ったり止まったりをあまり頻繁に繰り返すと推定精度は悪くなるが、
充電を10秒以上とやや長く実行すると、電圧がフル充電状態に近づくため推定誤差が小さくなるなど、
技術的には大変興味深い。
こういうのはマイコン制御の独壇場だ。
以下はPWM制御を行う車両を走行させた場合の速度変化を記録したグラフである。
no_payloadとは1両のみで走行した場合、 1 cartは貨車を1両牽引して走った場合、2 cartは貨車を2両牽引して走った場合を表す。
30秒おきにグラフがギザギザしているのは、プログラム容量の関係上、ON/OFFの幅の切り替えが
連続的には行えず、固定された4種類の比率を切り替えているためである。
切り替えた瞬間に、車がシフトアップするかのように速度が上がり、コンデンサ電圧の低下とともに
速度も下がっていき、しばらくしてまた比率が変って速度が上がるというのを3回繰り返す。
だいたい2分間くらいはほぼ一定速度を保ってくれる。(一定速度に見えないって?!これはほぼ一定速度なの!!)
マイコンチップ中の速度制御プログラムを改良すれば、もっと少ない速度変化で走るようにできる。
昔、パソコンゲームに「A列車でいこう」というのがあったが、ご存知だろうか?
プレイヤーが敷設したレールの上を客車や貨物列車が自動的に走ったり止まったり方向転換するようなゲームだが、
ちょうどそんな感じである。
おもちゃの機関車が手元のボタンを押すだけで自動的に走り出し、
決まった場所で勝手に止まって充電する,なかなかかわいい奴である。
この電動車の場合,ゼンマイと異なり,電極の上に来ると勝手に止まって充電してくれるので,ゼンマイを手で
巻くという煩わしさが無いという利点がある。
動作ムービー
EF65cart2.mpg MPEG形式ムービー, 6.16MB
磁気センサを搭載し,レール下の磁石を検出して反転する。
本システムの特徴
【1】乾電池ではなく大容量コンデンサを用いて充放電するので,電池の交換が不要で使用済み電池のような廃棄物も出ない。
【2】給電レールまで移動して,そこで自動的に停止し充電する。
【3】電極への電気を切るだけで,列車に手を触れることなく自動的に発進させることができる。
【4】電極への電気の方向を変えるだけで,進行方向を自由に変えられる。
【5】走行路上で電気的接触が存在するのは一部の電極がある部分だけなので、走行路を安価に製造可能である。
【6】環状の同一走行路上で複数の列車を衝突しないように走行させることが容易である。
【7】頻繁に充電が必要な代わりに充電時間が極めて短いので,充電のため停止する位置を駅や信号などにしておけば,充電中でも、おもちゃとしての使用の体裁を与える効果がある。
走行路上を走る玩具の充電や発進・停止に関する上記技術は特許を取得した
(特許第3985136号,発明の名称 : 「走行玩具用充電兼発進・停止制御装置」)。
上記コンデンサ電動車とゼンマイ車が蓄えるエネルギーの比較
この回路を使った電動台車は、
フル充電状態からならちょうど2分間走り続ける。
写真にあるような環状レイアウト(曲線12本直線4本)なら写真の貨車2両を牽引してちょうど30周走る。
最初の1分で20周し、残りの1分で徐々に減速しながら10周するような走り方である。
それに対してゼンマイ動力ではちょうど5周走る。
コンデンサ電動車はゼンマイ動力車の約6倍の性能だが,
電気2重層コンデンサのエネルギ密度はほぼゼンマイ並みのオーダーであることが体感できる。
使用したコンデンサはエルナー社製2.5V3.3Fスーパーキャパシタで,内部抵抗が極めて小さく,小型モータの駆動など大電流での充放電に適している。モータの巻線抵抗は14.5Ω程度だった。
ゼンマイのバネが蓄えるエネルギーとコンデンサのエネルギーを比較した数値計算を以下に示す:
- 【ゼンマイのエネルギー】
ゼンマイ巻き始めに必要なトルクは36g/cm,
ゼンマイ巻き終わりでのトルクは210g/cm,ゼンマイは6回転する。
よってゼンマイを巻くのに必要なエネルギーは,
(0.036 + 0.21)/2 (kg) × 9.8 m s-2 ×0.01 ×2 × 3.14 ×6 m = 0.454 (m2 kg s-2 = J)
よってゼンマイのエネルギーを1秒で使い切るとすると 0.454 ワットの出力が得られる計算である。
- 【コンデンサのエネルギー】
耐圧V=2.5(V),容量C=3.3(F)のコンデンサが蓄えるエネルギーEは
E = 1/2 CV2 = 1/2 × 3.3 s4 A2 m-2 kg -1 ×2.5 2 m4 kg2s-6 A -2 = 10.3125 (m 2 kg s -2 = J)
よってエネルギーを1秒で使い切るとすると 10.3 ワットの出力が得られる計算である。
なんだかエネルギーが20倍近く違うが、電動の場合, 電気→運動エネルギーの変換効率が悪いとか
車体重量がかなり重くなるとかの影響があるから、こんなものだろう。
【モータ熱損失の計算】
モータの巻線抵抗が14.5Ωでここを通る電流が全て熱損失になる。
コンデンサの電荷はCV=3.3×2.5=8.25クーロンで,約2分間電流が流れるので1秒間におよそ0.06875Aの電流が
流れると考えると、熱損失は
14.5 Ω× (0.06875 A )2 × 120 sec = 8.22 (J)
なんと80%近くのエネルギーが熱として無駄に消費され、運動エネルギーへ変換されるのは20%程度以下である。
しかし上記の計算はかなり雑で、常に一定電流が流れ続けることはありえない。
きちんと計算するためにはモータ電流を計測しなければならないが、このサイズでは素人には技術的に困難である。
まあこれ以上正確に計算してもナンセンスなので、このくらいで満足しておこう。
上の写真はパーツ大きさの比較である。左:コンデンサ,中央下:ゼンマイ本体,右:ゼンマイ本体を含むゼンマイメカ
エネルギーを蓄える実体であるゼンマイ本体(鋼板ロール)の大きさはコンデンサの大きさに比べるとかなり小さい。
ゼンマイ本体(鋼板ロール)の大きさがコンデンサと同等くらいのもので比較計算すると,エネルギーはだいたい同じになる。
電気2重層コンデンサの応用のページへ