ラトルバック (Rattleback)

ltback2.jpg (13KB) ltback1.jpg (12KB)
アメリカ出張のお土産。右向きに回転させると, しばらくして回転方向が反転する。
左回転させると,安定して回りつづける。 右向き回転では,回転状態からしばらくすると上下震動の状態になり, 右回転が止まってシーソーのような動きになる。 さらに振動状態からだんだん左に回転し始め, 最後には左回転だけになる。
また,端を上からつついてシーソーのように動かすと, 左回転する。これらをまとめると以下のようになる。 回転による運動エネルギーを一度振動エネルギーに変換し, それを再び逆方向の回転をするためのエネルギーとしている。 興味深いのは,このプロセスが写真に示すように単純な剛体で 起きる点である。
MPEG動画像ファイル1:左右に回転させた場合 Rattleback.mpg 857KB
MPEG動画像ファイル2:端をつついて振動させた場合 Rattleback2.mpg 408KB
この一見細長いレンズのような立体は, よく見ると底面の形状が左右非対称になっており, これが回転←→振動モードを変換するしくみとなる。
ltbkline1.jpg (17KB)
上の写真はラトルバックを真上から撮影したものである。 背景の直線がS字に歪んで見える。
下の図は,底面の形状を等高線と稜線で示したメモである。
LTBK_FIG.gif (5KB)
アメリカでは「スペース・ペット」という商品名らしいが, 筆者はきいたことはない。また「ケルトの石」とも言われることが あるようだ。これはケルト族の遺跡から発見されたことから付けられた そうである(文献参照)。

ラトルバックは角運動量を保存していないのか? (2000.05.23)

このおもちゃは,一見すると角運動量を保存しないように見える不思議な現象を楽しむものである。 実際には底面の摩擦によって床と運動量のやりとりをしており,摩擦が本質的に運動に関与している。
角運動量を保存しないように見える不思議な現象として,この他にファラデーの単極誘導とかNマシンとか 呼ばれている物がある。
本サイト内のファラデーの単極誘導/単極モーターのページへ
他サイトの単極誘導のページへ無断リンク
結論から言うと,単極誘導は角運動量が空間の電磁場に変換される現象であり, 奇妙に見えるからといってフリーエネルギーが発生するなんてことはない。
読者は,光や電磁波が光子として運動量を持つことをご存知だろう。質量が無くても運動量は存在できる。 面白いのは静電磁界の存在する空間は角運動量を持っているということである。 そして角運動量を持つ主体が電極や磁石といった電磁界を発生させている物体ではなく,空間そのものであり, 「角運動量」という力学的な物理量が,人間の感覚では知覚不能だが物理的には全く同じ物理量である 「静電磁界」に変換されるため,非常に奇妙な現象に見える。
単極誘導の詳しい原理については[青野 修 著,小出 昭一郎・大槻 義彦 編: 物理学One Point-2 電場・磁場,共立出版]のp.62やp.81を参照してほしい。 筆者が修士課程の学生だったころ,エレクトロニクスライフの記事に これが掲載されていたのだが,なぜ角運動量を保存しないように見えるのか,その原因が 分かったのは恥ずかしながら博士課程を修了してからだった。 でも,何人もの物理学科卒や電子工学部卒の学生に尋ねたが誰もこの現象を説明できなかったのだから, 筆者が恥じることはないのかな?それにしても角運動量は奥が深い。

ラトルバック入手までの経緯

筆者は98年3月末にコネチカット州Hartford空港から, University of Massachusetts(マサチューセッツ州,Amherst) のDr.Suttonの研究室へ見学に行く途中,Ingresideというフリーウエー出口の, すぐ横にある巨大なショッピングモールで科学グッズの専門店という妙な店 を見つけて購入した。 バケツ程度の大きさのカゴいっぱいにコレが無造作に置かれていた。 しかも商品の名前や遊び方の説明等は一切なく, 紙切れに値段が書いてあっただけと記憶している。 1個2ドル程度だった。 小林研究室の学生のおみやげ用にと30個くらい買ったら, 店のねーちゃんに「学校の先生ですか?このたくさんのレンズは子供たちへのおみやげ?」 みたいなことを言われたので, 店もこれが何なのか分かずに売ってるようだった。 ちなみにそのとき「そうです」とか答えて苦笑してしまった。

ラトルバックはコマの一種か? (2000.05.19)

様々なコマについて取材しているという方から 「ラトルバックはコマの一種なんでしょうか?」という質問をいただいた。 なかなか鋭い質問だ。 コマは静止している状態では不安定ですぐにバッタリと倒れてしまうが, 回転すると安定して立つことが本質だと思う。 ラトルバックは静止していても曲面を下にして水平に安定させるのは簡単であり, コマのように回転することで安定になるというわけではない。 一見するとコマのようにぐるぐる回るおもちゃではあるが, ラトルバックはコマではないというのが筆者の結論である。
それにしても,コマの取材で何をどう検索するとこのページにたどり着くのだろうか?

ラトルバックの入手方法について (2000.05.23)

「ラトルバックはどこで入手できるのでしょうか?」という質問をいただいた。 筆者は,とある筋から,ラトルバックの製造元がすでに生産をやめているため 入手困難ときいているが真偽は定かではない。 少なくとも神奈川県内や東京都内の科学グッズを扱っている小売店などでは 見掛けたことはない。 WEBで調べてみたところ,日本国内では理科教材を扱っている 中村理科工業(http://www.rika.com/) がラトルバックも扱っているようである. この会社のホームページよりweb製品カタログから「ラトルバック」で 検索すると,面白科学グッズ・おもちゃとして登録されていた。 価格は750円となっており,米国まで買いに行くことを考えればリーズナブルだろう。

その他

ラトルバックの綴りを間違えていた。Lattlebackではなくて正しくはRattlebackである。 (2000.05.24)

(2007.07.23) 村上様より、ラトルバックについてのシンポシウム発表案内のご連絡と、 関連論文をお送りいただきました。
機械学会 第10回「運動と振動の制御」シンポジウム 2007年8月9日(木) (MOVIC2007)
題名:玩具'ラトルバック(rattleback)'の奇妙な挙動の直感的説明
以下の関連論文の運動方程式を利用してラトルバックの運動を説明しています。
【関連論文】村上 力:独楽の姿勢運動の遷移行列表現、日本機械学会D&D’06, 名古屋 (2006).
村上様、ご連絡ありがとうございました。

参考文献:実験で楽しむ物理1 ひとりでに回る生卵,丸善
関連リンク
リンク1:中村理科工業(http://www.rika.com/)
リンク2:天神さんのラトルバックのページ
リンク3:形状の図解。ただし英語
リンク4:謎
リンク5:商品案内らしい
リンク6:変わったおもちゃがいっぱい
リンク7:変わったコマがいっぱい

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